小さな変化

 

もう一つの重要な小さなイノベーションは自動車の鍵とロックである。
これによって持ち物を自動車のなかに閉じ込めることになった。
そしてこのことは、
自動車システムをA地点とB地点を結ぶ
単なる物理的な移動手段以上のものとして、普及させるのを早めた。
現代の小さな変化は、
家庭や職場から離れて別の方向にむかう新たな形態の移動を促す
標準化されたクレジットカードの登場である。
おかげで個々人は移動をしながら、
危険な思いをして大金を運ぶ必要はなくなったのである。
(ジョン・アーリ[著]/吉原直樹+高橋雅也+大塚彩美[訳]
『〈未来像〉の未来――未来の予測と創造の社会学』作品社、2019年、p.108)

 

イギリスの社会学者ジョン・アーリ最後の著作。
やわらかくていねいな記述から、
思考の過程を追体験できるようで、
いろいろと考えさせられます。
あまりにあたりまえな自動車の鍵とロック、クレジットカードの登場が、
世の中にどんな変化をもたらしたのか、
言われてみれば、なるほどで。
しばらく前から3D印刷が
マスコミでも取り上げられるようになりましたが、
ジョン・アーリの考察は、
その技術がいかに世の中を変えてしまうものであるか
を精緻に描いていて目をみはります。
これまで人類は、モノを製造してきましたが、
3D印刷がさらに高度になり普及すれば、
モノは、
製造するのではなく、印刷する、
そういう時代がやってくることになる。
マニュアルをダウンロードし、
居ながらにしてモノを印刷する…。
そうか。
既知の未来から未知の未来へ。

 

・懐かしき山も学舎も寒の内  野衾