ビバークの日々

 

松本大洋おススメの『神々の山嶺』を
年末一気に読みました。
「山嶺」と書いて「いただき」と読ませています。
夢枕獏の原作を谷口ジローが漫画化したもの。
登山家の羽生丈二が、
エベレストの南西壁を冬、無酸素で単独登頂に挑むという
過酷極まる物語。
登山用語で露営、野宿をビバークといいますが、
冬山でひとり蓑虫のように釣り下がって時を過ごす描写は、
実体験のない者にまで、
刻一刻の重さがひしひしと伝わってきました。
わたしがするのはハイキングぐらいで、
登山というレベルのものは実際にしたことがありませんけれど、
『神々の山嶺』は、
山に登る精神、
とでもいったものを見せてくれるようです。
山頂から見える光景をひたすら夢見、
体力の限界、頭脳の限界をもって山嶺に向かう。
頂上から見える光景が鏡となって映しだされるのは、
まだ見たことのない、
これまで知ることのなかった自分の姿かもしれない。
そんなことを感じながら読み進めているうちに、
ハッと気づいたことがありました。
いまのわたしたちの置かれている状況は、
ゴツゴツとした冬山の山頂近くでビバークする登山家の場所、
に似ているのではないか。
いままで体験したことのない時間のなか、
ときに窮屈な思いをしながら
ひっそりと過ごすしかありませんが、
ここでいろいろ考えたことが、
やがて清々しい光景につながり、
それが鏡となって、
これまで見えなかったものが見えてくる、
そんな時が来るような気がし、
またそう願いたい。

 

・暁闇の何の予兆か初烏  野衾