音調のこと

 

実際には、音調がもっとも重要であるかもしれない。
T・S・エリオットは
「詩における意味は、
それによって読者を油断させてその隙に本質的なものを相手に忍びこませるもの」
と言っている。
これは詩に限らない。
繰り返し述べるが、精神医学的面接においても、
H・S・サリヴァンは
「言語的(verbal)精神療法というものはない。
あるのは音声的(vocal)精神療法だけだ」
とまで言っている。
そして
「きみの「デザイアの声」で語り、「トレーニングの声」で語るな」
と言っている。
耳の聞こえにくい人との面接は目の見えない人との面接よりも難しい。
また、一般に大声での会話では音調がなくなる。
耳の聞こえにくい人との対話の難しさは、
逆説的だが、そこである。
(中井久夫『私の日本語雑記』岩波書店、2010年、p.240)

 

三橋美智也の歌について母が漏らした
「このひとの声だば、世話してもらえるような気がする」
の言葉をさらに敷衍する内容。
三橋美智也をリスペクトする歌手は多く、
テレビでも、
彼の歌をカヴァーして歌う歌手は少なくないけれど、
みんな上手いし、
それなりに楽んで聴いてはいるものの、
改めて、
三橋美智也の声の質について考えざるをえません。
美智也の声は、聴いているうちに、
気持ちがだんだん落ち着いてくるというのか、
おだやかになってくるというのか、
とにかく、声、なんですね。

 

・犬連れた佐々木さんにも秋来る  野衾