ゲーテ詩集のひと

 

年末年始、秋田に帰省しての帰り、
JR井川さくら駅から秋田行きの各駅停車の電車に乗りました。
北国のこととて、乗客はどちらも、防寒靴を履いています。
窓の外はどんよりと曇り、
小雪がちらほら降っています。
羽後飯塚駅を過ぎ、つぎは大久保駅。
数名乗ってきた客のひとりが、
わたしのすぐ斜め向かいのシートに座り、肩から外したリュックを膝に乗せ、
中から本を取りだしました。
血管の目立つ手ににぎられた本は、ゲーテ詩集。
高橋健二の名も見えましたから、新潮文庫なのでしょう。
小口、天地、本文の紙はだいぶ焼けています。
リュックをかかえながら、
しずかに本を開き、
しおり紐のところからページに目を落としました。
ゲーテといえば、
秋田の先達で、母校の先輩でもある木村謹治がいます。
大学時代、
キムラ・サガラのドイツ語辞書をつかっていたのに、
その「キムラ」が木村謹治先生であることを、
当時は知りませんでした。
目の前でゲーテ詩集を読んでいる老人は、ひょっとして、木村先生と縁のある方ではないか。
いや、木村先生ご本人。
写真で見たことがあるから、それはないか。
それに、
木村先生はとっくに亡くなっている。
でも、特徴のある眉毛の形がどことなく似ているような…。
とりとめのない、そんなことを思っているうちに、電車は秋田駅に到着。
ゲーテ詩集のひとは、
本を戻し、
リュックサックを背負い、わたしよりも先に電車を降りました。
どこに行くのだろう、
と、
ちょっと思いましたけれど、
思っただけ。
新幹線の発車時刻まで、まだ一時間あります。

弊社は本日より営業開始。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

・存在の暾と開けゆく大旦  野衾