夢と記憶

 

横須賀にある高校に勤めていたころ、
Sさんという国語の教師がいました。
口数はけして多くないのですが、太い渋い声で、
なんとなく信頼のおける先生でした。
Sさんの父親は全国紙の記者だったらしく、
中学から高校にかけて、か、高校時代なのか、
秋田高校で学んだとのことで、
Sさんは、
わたしの高校の先輩にあたることが、
しばらく経ってから分かりました。
秋田高校で学んだことをとても誇らしく話してくれました。
ご自宅にお邪魔し、
奥様の美味しい手料理をごちそうになりました。
勤めていた高校が定期的に発行する紀要に『南方録』
の現代語訳を発表していたはずです。
Sさんは、
茶道部の顧問をされていました。
さて、ここまではわたしの記憶に残る過去の事実ですが、
ここからが夢の話になります。
職員室のようなだだっ広い部屋にわたしは居て、
社長としていくつかのことを、そこに居た人たちに語っていました。
社員もいましたが、
外からのお客さんもいて、
わたしは自説を少し強調して喋りました。
と、
奥に居た二人がわたしの横を通り過ぎ、帰っていくようでした。
ふと見ると、
SさんとSさんの奥様でした。
すれ違いざま、
Sさんの奥様が、
たしか「三浦さんのもの言いだと、
イタリアがものすごく優れていることになるみたい」
と言った気がしました。
わたしの主張がどうも気に入らなかったようです。
Sさんは黙って、
わたしのほうを見ることもなく、
奥様の肘をつかんでさっさと引き上げていきました。
Sさんに挨拶すらできなかった。
なんとなとく、悲しくなりました。

 

・初雪や空の碧さを持ち来る  野衾