ひじ時計

 

こないだの日曜日、出勤後まずはマッサージチェアに深く腰掛け、
日頃の首や肩の凝りをほぐしてから、
予定していたゲラ読みに取り掛かりました。
その後、Kさん、Yさんが出社し、それぞれの仕事に向かうようでした。
夕刻となり、
ふたりにあいさつをし、ひと足先に退出。
日曜日の電車は、乗客が少なく快適。
保土ヶ谷駅のホームに降り立ち、何気なく、右手が左手首に触れた。
ら、
あれ!?
ん!?
無い。
無い無い。腕時計がない。
朝、ちゃんと、したはずなのに!
待て待て。焦るな。落ち着いて落ち着いて。
(こころの声とは裏腹に、この時点で、そうとう、焦っている)
会社に電話してみる。
「もしもし。三浦だけど、机の上に腕時計、忘れてないかな?」
「ちょっと待ってください。……。無いですね」
とYさん。
「そうか。わかった。ありがとう」
今度は自宅。
「おれだけど、本棚のいつものところに腕時計、忘れてない?」
「ちょっと待って。……。無いよ」
「あ。そう」
ということになり、
焦りはそろそろ絶望へと変貌を遂げるようであった。
なんて。
余裕をかましている場合ではないので、
駅の改札を抜け、こころの汗を額に浮かべながらタクシー乗り場に直行。
一路紅葉坂の教育会館へ。
ほどなく到着。
会社に入る前に、思い当たる節があり、廊下のトイレをチェック。
無い。
会社のドアを開け入室。
Kさん、Yさん、怪訝そう。
目を皿のようにして、というのはこういう時につかうものかと机上を確認。
無い。
無い。
もはや、絶望の沼にどっぷり浸かろうとした、
その瞬間、
われの右手が、左の肘の辺り、なにやら硬いものに触れた。
ん!?
あ!!
あったーーー!!!!!
そうか。
今朝、ひどく寒かったので、
いまは死語と化したとっくりセーターを出し、
頭からかぶったのはいいとして、
手首のところがそうとうきつく、おそらく、
腕時計の中留が外れ、肘の辺りまで押し上げられて、そのままそこで止まっていた、
らしい。
疲れが急にどっと出た。
やれやれ。
老いに入ると書いて「老入れ」
それについての感慨を、無明舎の社長がブログに書いてありましたが、
わたくしも、
老入れの境涯を改めて確認する仕儀となりました。
ふ~。

 

・淡雪や来し方のとき解けて消ゆ  野衾