生命線

 

電話番号を数多く覚えていられる人はほとんどいないために、
若年成人たちの間では、
携帯機器がネットワーク・メンバー間の「生命線」となっている。
固定電話によるつながりは、
「なくした」携帯電話の代用として満足を与えるものにはならない。
人びとは、
つながりのない無人の荒野のなかで途方に暮れてしまう。
調整をするための道具がなければ、
身体による旅をすることは少なくなり、
顔を合わせた出会いも少なくなるだろう。
(ジョン・アーリ[著]/吉原直樹・伊藤嘉高[訳]
『モビリティーズ 移動の社会学』作品社、2015年、p.266)

 

半生を振り返り、
決して生きることをサボってきたつもりはないのに、
ジョン・アーリの
『モビリティーズ 移動の社会学』
を読んでいると、
なんだか、
じぶんの足許がもろく、ぐらついて、
知らぬ間に、
こんな途方もない荒野へ投げ出されてしまっていたのか
の感が拭えません。
ジョン・アーリは、
「移動」を現代社会を見るときの根本に据えた社会学者ですが、
この本は、
彼の集大成といっても過言ではない
ものだと思います。
数年前、
すでに「若年成人」ではなくなっていたわたしは、
携帯電話を失くし、
それでも、
文字どおり途方に暮れた。
いまだに、
携帯電話を失くして途方に暮れ、
世界の終り、
みたいな気分に襲われる夢を見ることがあります。
この本の訳者である吉原直樹さんと
「都市をめぐって」
をテーマに対談することが決まっており、
その内容は、
次号「春風新聞」に掲載する予定。
乞うご期待!

 

・春隣盲導犬の尾の揺るる  野衾