亀鳴く

 

・春の海空を飲み込む鯨かな

 

春の季語に「亀鳴く」がありまして、
わたしが持っている『合本 俳句歳時記 第三版』(角川書店編)
によれば、
「春になると亀の雄が雌を慕って鳴くというが、
実際には亀が鳴くことはなく、情緒的な季語」
ということになります。
ところが、
石寒太編『よくわかる俳句歳時記』(ナツメ社)
の一口メモ欄に、
「亀は鳴かないとされていますが、
実際に飼っている方に伺うと鳴くそうです」
の説明があり、
本当のところはどうなんでしょう?
亀のことは
亀に聞くしかありません。

 

・亀鳴くといへば金沢泥亀(でえき)かな  野衾

 

若鮎

 

・春の雨訛るタクシードライバー

 

「花の咲く頃になると決まって思い出すのは、故郷のこと…」
『男はつらいよ』冒頭のセリフを思い出し、
先週この日記に書いたら
懐かしくなって
やおらDVDを取り出し
寝転がっての鑑賞となりました。
おいちゃん、おばちゃん、御前さま、
タコ社長、博、さくら、
そして寅さん、
もうみんなキレッキレのピチピチ。
啖呵売のキレのいいこと!
ほれぼれします。
若鮎のごとく
という言葉がありますが、
そんなことまで連想させられます。

 

・ひかり吸ひふくらみを増す蕗の薹  野衾

 

暖か

 

・吾をつつみ無限の風や春の丘

 

きのうは暖かかったですね。
仕事の合間にベランダに出てみれば、
ふわり、
柔らかい風が頬を撫でてゆきます。
おもわず深呼吸。
いよいよ桜の季節です。
たとえば水元公園の桜といえば寅さんで。
「花の咲く頃になると決まって思い出すのは、故郷のこと…」
渥美さんのキレのいいセリフが春を呼びます。
きょうは雨模様で
気温も
きのうほどは上がらぬようですが、
それでも最高気温17、8度といいますから、
しのぎやすい一日になりそうです。

 

・やすらけくこの一日を春の風  野衾

 

『鎌倉アカデミア 青の時代』

 

・憂きこころ捨てて此処より春うらら

 

銀座教文館でのフェアは昨日で終了。
お越しくださった皆様、
ありがとうございました。
今月は、
もう一つ大きなイベントがございます。
31日(土)13時~15時
鎌倉アカデミア 青の時代』の上映会。
本編上映の後15時10分から
大嶋監督とわたしの対談も。
人文系学問への風当たりが強くなっているいま、
学ぶことの喜び、
教育の営みについて
いっしょに考える時間になればと
願っております。
こちらもぜひ
お運びくださいますよう、
お願い申し上げます。

 

・切通抜けて空あり弥生かな  野衾

 

歌い始め

 

・駅蕎麦や春のメニューの揃ひたり

 

ここ御殿山では、
きのうから鶯が鳴き始めました。
ホー ホケホケ ホー ホケホケ
と、
かわいい声で鳴いていますが、
どことなく心もとなく
慣らし運転といった具合。
畏友I君の名句に
「鶯も練習すれば上手くなる」
がありますが、
ホー ホケキョと
鳴ききるのはいつからでしょう。

 

・鎌倉や遥か遊子の雲行けり  野衾

 

ぽかぽか

 

・ビジネスマン折り目正しき春となる

 

桃が咲き、桜が咲き、
いよいよ春本番。
きのうはぽかぽかと
いい陽気でした。
こうなると、
もったいなくて本など読んでいられません。
ほんとうに、
世界は一冊の本で、
書かれた文字だけが本ではないという
長田弘さんの言ったとおり。
読もうとすれば、
どのようにも読める本が
身の周りにはいっぱいです。

 

・春風や我のこころの乱高下  野衾

 

大地の声を聴く

 

・鎌倉の空をヘリ行くうららなり

 

東日本大震災からきのうで丸七年が経ちました。
この機に合わせ、
銀座教文館ギャラリーステラにて
「大地の声を聴く」と題し、
一時間ほど話させていただきました。
四つのハシラを立て、
それに沿ってすすめていた折、
一人称の方言「おい」
を発声したとき、
なぜだかググッと感情が盛り上がり
噴き出して、
ヤバイヨヤバイヨ!
自分が自分でないような、
しかし、
あとで考えてみれば、
あれが本来の自分であるような、
不思議な気にとらわれ。
わたしたちは実に
ことばで世界に触れていきますが、
外にも内にも
無限の世界があって、
まさに
「太陽とひとのこころは見つづけることができません」

 

・春風や明日の講演想を練る  野衾