コーヒーの大学院

 

・珈琲店老婆のシャツの梅花かな

神奈川新聞社に行く用事があったので、
昼の食事を早めに済ませ、
近くの「コーヒーの大学院」へ。
初めて入ってから十年は経つだろう。
看板が目に付き、
ふらりと入って飲んだコーヒーの
なんと美味しかったこと。
久しぶりに入ってみることに。
ブレンドコーヒーを頼み、
読みかけの文庫本を取り出し
数ページ読み始めるや、
八十前後だろうか、
女性二人がやおらわたしの隣に陣取った。
カレーライスとコーヒーを頼むや、
女性同士の会話が始まった。
「これ、もらってくれない」
「だめよ。値段知っているもの」
「いいじゃないの。わたし着れないんだから」
「そんな高いもの、もらえないわよ」
「そんなこと言わないでもらってよ」
「ダメよダメ」
「ダメじゃないって。いいじゃないの」
「わたしそんな高い物身に着けたことないし」
「そんなこと言わないで。箪笥の中で腐らせてしまうだけだもの」
「ダイエットしたら着ればいいじゃない」
「ダイエットなんてあなた。大病でもしなきゃ無理よ」
「ダメだって。わたしに似合うかどうかわからないし」
「絶対似合うって! それは保証する」
「そうかしら」
「そうよ。あら、カレーが来たわ」
「じゃあ、カレーを食べたら、試しに着てみようかしら」
「そうしてよ。絶対似合うはずだから」
「このカレー美味しいわ」
「あら、もう食べてるの」

・春近し横浜港の霧笛かな  野衾