秋田のハイデガー

 

・稿成りて窓外見遣る春隣

秋田では「痛い」ことを「イデ」といいます。
例えば「頭が痛い」は「アダマイデ」
「額が痛い」は「ナヂギイデ」
ナヂギは額、
ひたいのこと。
古語に【なづき】というのがあり、
脳・髄を指しますから、
おそらく「なづき」が訛って「ナヂギ」になったのでしょう。
「独鈷(とくこ)をもてなづきをつき砕き」と、
平家物語にでてくるそう。
愛用する佐伯梅友・馬淵和夫編の古語辞典に
ちゃんと書いてある。
独鈷は金属で出来ている仏具の一つで、
両端が尖っている。
方言はまさにことばの宝庫。
また、
秋田方言に濁点がよくつかわれることは、
つとに知られておりますが、
それは疑問を表わす「か?」にも当てはまり、
「か?」は多く「ガ?」になる。
「東京へ行ったことあるか?」は、
「東京サ行ッタゴドアルガ?」
「そうか?」は「ンダガ?」あるいは「ンダテガ?」
ところでこの「ガ?」ですが、
愛情や疑問の強度により
微妙に伸ばされることが間々あり、
上記の例の場合も、
「ンダガー?」「ンダテガー?」と、
すぐになり得る。
ここまで来ると、
秋田以外の方も
そろそろ想像がついたかもしれませんが、
「歯はだいじょうぶ?」「歯が痛いの?」「歯が痛いのか?」を、
秋田弁に翻訳すると、
「歯、イデガー?」ハイデガーとなる。
ドイツ生まれで、
『存在と時間』を著し二十世紀を代表する哲学者も、
秋田弁にかかれば、
歯、イデガー? だもの。
なんとも愉快。

・一日の終りおでんに酒がある  野衾