北島三郎

 

・冬の朝行ってきますのこゑ響く

秋田の実家のすぐそばに、
北島三郎が好きな叔父が居て、
どれぐらい好きかというと、
居間の鴨居に和服姿の北島三郎の大きな写真(サイン入り)が飾られている。
北島三郎の新しい歌が出ると、
いっしょうけんめい覚える。
歌詞カードを車のスピードメーターのところに置いて、
運転しながらでも歌ってゐる。
スピードはどんどん上がり、
違反にも気づかない。
叔父の前で
北島三郎の悪口は間違っても言えない。
絶対言えない。
わたしも北島三郎は好きなのだが、
好きで、
「風雪ながれ旅」「まつり」など、
カラオケで歌ったりもしたが、
後期の歌は、
人生いかに生くべきかの教訓的なフレーズが多く、
カラオケをやらなくなるとともに、
ほとんど聴かなくなった。
が。
初期の北島三郎の歌は違う。
教訓的でなく人生の儚さが一閃し、
きらきらと輝いている。
以前テレビで、
北島が紅白歌合戦に初出場したときの映像を観たことがあるが、
若鮎のことばが似合う風情、眼の輝きに目を瞠った。
これが北島三郎かと思った。
好きな映画『男はつらいよ』の第一作で、
御前様のお嬢さん冬子に惚れた車寅次郎が、
勘違いの恋に呆けて
鼻歌混じりに歌う歌が
北島三郎の初期の名作『喧嘩辰』(昭和三九年)だ。
「♪ 殺したいほど惚れてはいたが~ 指もふれずにわかれたぜ~、とくらぁ」
わかるなぁ。
これは『喧嘩辰』三番の歌詞の出だし。
♪ 殺したいほど惚れてはいたが~ 指もふれずにわかれたぜ~

・歳時記や手を滑り落つ寒四郎  野衾