詩のレスリング!?

 

・野に出でてぎんがぎんがの芒かな

夢を見た。
若いころは怖い夢を見ることが多かったが、
このごろ見る夢は怖くない。
どちらかといえば楽しく、
眼が覚め思い出して笑えるものが少なくない。
今朝見た夢は、詩のレスリング。
世に詩のボクシングなるものはあるが、
詩のレスリングは初めて。
リングに上がるのは、
詩人の佐々木幹郎さんと歌人の佐佐木幸綱さん。
同じ「ささき」でも、
幹郎さんが佐々木なのに、
幸綱さんは佐佐木。
ただし本名は佐々木幸綱です。
繰り返しの「々」を使うか使わないかの違い。
詩人と歌人であるから、
異種格闘技戦ということなのだろうか。
幸綱さん、
国文学者で現代歌人協会理事長を務めておられるけれど、
歌人というよりもとからレスラーっぽい。
和服を身に着け強そう。
片や幹郎さん、
ISSEY MIYAKEのルースな衣装で、あまり強そうに見えない。
いつものように涼しげにニコニコしている。
なんて思って見ているうちに
ゴングが鳴り、
双方向き合い両手をがっぷりと組み合わせ、
力比べ状態から、あっ!
と思いきや、
幹郎さん、幸綱さんを猛烈にヘッドロック。
左かいなでぐいぐい幸綱さんの首を締め上げている。
待てよ。
これではただのレスリングではないか。
と。
「ててててててててってっ。とと、ところでっ、先の詩集『明日』は…」
と幸綱さん。
「んっ。あれはっ。ですねっ。とっ。東北っ。のっ。今度のっ。震災っ。でっと」
と幹郎さん。
単語がやたらと途切れ、かつ促音が入るのは、
そこでぐいぐい力を入れるためらしい。
ははあ納得!
レスリングの技を掛け合っても、
それだけで終始してはダメで、
言葉を途切らせた方のどうも負けらしい。
にしても、
二人ともほとんど赤鬼状態、
頭から湯気が立つかと見え、ていうか、立っている。
と。
仕事の途中だったことを思い出し、
わたしはそそくさと会場を抜け出し社に戻り、
仕事の続きをしていた。
ら。
左斜め横の編集長の席に幹郎さんが座っている。
真面目なお顔で落ち着いている。
赤鬼でない。
ふむ。
どうやら勝ったみたいだ。
でも、いつの間にここに来ていたのだろう。
机に向かって何か書いていらっしゃる。
原稿なのか手紙なのか。
「資料の整理はどうしているの?」と訊かれたので、
「紙だけならすぐ後ろの棚にある黒いファイルを使いますが、
紙だけと限りませんから、A4サイズの箱を使うことも少なくありません」
なんて説明し、
箱を持ってきてお見せすると、
幹郎さん、ケータイで写真なんか撮っている。
わたしが訝しそうにしていたせいか、
問わず語りに、
知人に見せてあげようと思って、
と説明してくださった。
特別な箱でもないのにと不思議な気がした。
わたしは、
詩のレスリングのことを尋ねたいのだが、
どうもそういう雰囲気でなく、
いつ切り出していいのか迷っている。

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