黄金の海

 写真集『九十九里浜』の著者・小関与四郎氏に会うため、千葉県横芝へ。専務イシバシと晶文社の編集者Kさん同行。奥様が朝から用意してくださったとかで、餅料理を鱈腹ご馳走になる。美味。有難し!
 その後、九十九里浜を含め、広く房総半島をテーマ毎に撮った写真を見せてもらう。特に、鯨の解体写真には息を呑んだ。かつて新聞に写真と文章を連載した時の記事も拝見したが、ナマの写真の迫力はまた格別。血ぐるみになって巨大な鯨を解体していく作業工程は、鯨を解体しているのか人間が解体されているのか区別のつかぬ、いわば一蓮托生の世界を表現しているとも思える。
 小関氏がクルマでハマグリを買いに行くというので、同乗させてもらう。市場にて小関氏、3キロ(!)のハマグリと大エビを買い、写真スタジオへ戻る。奥様がさっそくガスコンロをセットし焼いてくださった。われわれ3人、ひたすら食べるのみ。
 焼いたハマグリに垂らした醤油が何とも言えぬ香ばしい匂いを発し、否が応でも食欲をそそる。旨かったあ! 餌を待つ小雀のように皿をチャンチャン鳴らして待機するわれわれに、奥様が、あるときはテーブルを右回りに、またあるときは左回りにハマグリをのせてくれる。
 ぷりぷりに太ったハマグリをがぶり! 噛むほどに、海の幸のえもいわれぬ甘いエキスが口中に広がり至福の時を迎え、飲み込むのを惜しみつつ、がしかし、そこをぐっと堪えビールで胃の腑に流し込む。うめえ! こんなに旨い焼きハマグリをこんなに鱈腹食ったのは初めてだ。九十九里生まれのイシバシも、茅ヶ崎育ちのKさんも同様。すっかりご馳走になった。
 横芝発19時13分新宿行きしおさい号にて東京へ。車窓に浮かぶ夜の景色が、スタジオ2階にて小関氏に見せてもらった大判の幻視写真、鯨の背中と見紛うばかりの黄金の海と重なった。