風天

 

・遠くより音叉のごとき秋澄みぬ

『風天 渥美清のうた』(大空出版)を面白く読んでいます。
著者は、元毎日新聞記者の森英介さん。
「風天」は渥美清の俳号で、
たとえば、
こんな句をつくっていました。

○蓋あけたような天で九月かな

○お遍路が一列に行く虹の中

この本は、
渥美清の俳句に焦点を当てたルポルタージュと、
発掘された風天二一八句の全解説(鑑賞は石寒太)
で成っていますが、
山田洋次監督の伝える話が印象に残りました。

「そういえば、こんなことを思い出しました。
『男はつらいよ』シリーズが十四、五回を超えたころかな、
批評家にマンネリズムだ、と新聞にやたら悪口を書かれました。
北海道のロケ先で林の中を渥美さんと二人きりで歩いているとき、
ウン、バサバサと落ち葉を踏む音まで覚えていますが、
僕は『とにかく僕たちは一生懸命作っている。
それを批評家は何故わざわざ悪口を言うのか。
気に入らない、評価しないと言うのなら無視すればいい。
わざわざ書かないで欲しいと思うよ』とぼやいたんです。
すると彼はこう言ったのです。
『作り手が自信を持ったときは、彼がどんなに謙虚であろうと努力しても、
傍から見ればどこか傲慢に見えたりするもんなんです』
そんな言い方で慰めてくれた。
僕は哲学者に話を聞いているような気がして、
なるほどなあ、と感心したものです」

まるで『男はつらいよ』の一場面のような話。
この言葉、
車寅次郎が言わせたセリフだったのか、
渥美清が言わせた箴言だったのか、
はたまた
渥美清の本名田所康雄が言わせた真言だったのか、
「さしずめインテリ」の山田監督、
一本とられたようです。
「お天道様は見ているぜ」

・朝冷えや目玉ばかりがぎょろつきぬ  野衾