いい本でなく

 いい本は売れない、という。負け惜しみもあろうが、それだけではないだろう。逆に、売れている本というのは、なぜ売れるのか。
 書店に行ってドカンと平積みされている本を手にとりパラパラめくってみると、確かに面白い。興味を惹かれる。古臭くなく今風の笑いがあり、薄味の、またそれだけ切実な悲しみがあるようだ。こういう本が売れるのか。素直に研究し、参考にすべきは参考にし、本づくりに取り入れるべきなのだろう。それはぜひそうしようと思う。でも、買わない。
 今年は、おかげさまで写真集を2冊も出せた。写真集など出したことがないのにである。が、どちらも、ウチらしいと自負している。極めつけで、真面目で、それから内容とは別に、本づくりがオーソドックスというか、どこかのんびりしたところがある。2冊の写真集とも、じわりじわりと売れている。社の宣伝にとっても、どれだけ貢献してくれたか計り知れない。
 いい本は売れないけれど、極めつけの本は、こんな時代でも、食べていけるぐらいには売れるというのがわたしの信念。もちろん売るための努力はする。でも、いい本は作るまい、売れないから。いい本でなく、際物でなく、他にはない極めつけの本を作ろう。極めつけにいい企画、良すぎて静かな祭になるぐらいの企画、人と仕事を惹き付けるような企画…。そういう企画は、頭のよさでなく、腹の感動が大事だ。それを良しとする人がいるかぎり、空に太陽があるかぎり、極めつけの企画を探して今日も行く。なあ、みんな!
 中年の主張みたいになって恐縮だが、会社を起こして6年目、今の正直な気持ちだ。自分も人も腹を楽しませるような本を作りたい。