父の一言

 熱燗の無言深かり金婚式
 体験学習に来た中学生の発表会に参加した感想を電話で秋田の父に告げた。黙って聞いていた父は、子供たちがそうやって親しく近づいてきたら、可愛いかったろう、と言った。意表をつかれたかたちだったが、可愛かったと正直に答えた。電話の向こうの父は満足そうに、そうだろうとうなずいた。
 父は母と連れ立ってよく中学生のバスケットボールの試合を見にいく。正式のものだけでなく、練習試合までも。わたしの弟が中学校のバスケットボール部の顧問をしていて、そんな関係もあって、自分の孫が出ているわけでもないのに、ちょくちょく出かける。車で数時間の体育館までわざわざのこともある。父は言う。自分の子供でなくても、どの子も可愛いなあ。可愛く思う。歳をとった証拠だろう…。
 特に趣味のない父が、息子が大声を出して指揮する姿を見、子供たちの走る姿を見て、何がそんなに面白いのかという気持ち(父に訊いたわけではないけれど)がないでもなかったが、父の一言はこころに染みた。子供たちのいのちに触れることが生き甲斐になっているのだろう。
 初霜や今日が特別金婚式
 金婚式共に息災年の暮れ