外国人

 

・電車行く家路公園蝉しぐれ

暑いので蕎麦屋へ行った。
暑いので、
冷たい蕎麦と細打ち饂飩がならぶ
合盛りせいろにしようと思っていたのに、
気が変り、
わかめ饂飩定食にしました。
店に入ってすぐの卓に陣取ったわたしのほかに客は一人。
三人目の客は青い目、
をしていたかどうかは
定かではありませんが初老の外国人。
座敷の方へ近づいていった。
大将すかさず、
「靴を脱いでいただくことになります」
が、
外国人、
近づいただけで
最初から座敷に上がるつもりはなかったらしく。
座敷手前の卓に向い、
大きなお尻を梟のように細め
ちょこなんと座った。
お茶を運んで女将さん「なんにいたしましょう?」
外国人一言も発せず、
ごにょごにょズボンの右ポケットから
小さな紙切れを取り出し、
女将さんに手渡した。
女将さん、
紙切れを身から離して目を細め、
「ああ、かもなんそばですね」
外国人、にっこり。
「どなたか書いてくださったんですね?」
外国人またにこり。
その後はどやどやと客が入ってき、
わたしは自分のわかめ饂飩定食に集中した。
食への集中度がわたしは高い。
ご飯少なめを頼めばよかったと思えど、
それは後の祭りで。
ん?
さてと。
外国人は。
食べ終えたのか。
見れば外国人、
やおら勘定を済ませ、
にこにこと顔をピンクに染め、
わたしの横をすり抜け
静かに目立たぬように店を出て行った。

・傷痛し傷まぬ傷のなかりけり  野衾