人生処方詩集

 

・なつかしき雲立つ夏のいたさかな

E・ケストナー・小松太郎訳『人生処方詩集』。
おもしろいタイトルの詩集だなあと思って
買ったのだったかもしれません。
ちくま文庫に入っています。
奥付をみると、
一九八八年十月二十五日第一刷発行になっており、
その対向ページに
一九八八年十二月七日了となっていますから、
文庫がでてすぐに読んだものと思われます。
もともとは
一九五二年に創元社から刊行されました。
寺山修司がこの本に触れているのをどこかで目にし、
それで文庫になったとき、
すぐに買ったのじゃなかったか
とも思いますが、
記憶なので定かではありません。
さてこの詩集、
曰くつきのものでありまして、
どういうことかといえば、
作者ケストナーが書いた四冊の詩集は、
ナチス政権下で焚書に附され
絶版になっていたところ、
四冊の詩集のアンソロジーというかたちで二冊、
国外で出版されました。
焼かれた詩集に入っていた詩のほとんどは、
二冊の詩集に拾われたそうです。
そのうちの一冊が『人生処方詩集』。
そんなことが訳者「あとがき」に書かれてあります。
この本、
ふつうの本のように、
ふつうに目次がありますが、
目次のほかに、
「用法」という、
いわば索引がありまして、
「年齢が悲しくなったら」「貧乏に逢ったら」「知ったかぶりをするやつがいたら」
などとなっており、
これがいわば人生の苦の処方箋というわけなのでしょう。
「生活に疲れたら」の項目には、
例えばこんな詩が分類収録されています。

臆せず悲しめ

悲しいときには 悲しめ!
のべつ 君の霊魂の見張をするな!
君の だいじな命に
かかわることもあるまい

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・幾度の入道雲の青さかな  野衾