写真集『石巻』

 

・坂下る野毛の女将の夕べかな

本年九月刊行予定で進行中の写真集『石巻』には、
三年間四万七千カットのなかから選ばれた
167点が収められることになりますが、
167枚の写真を順番にめくっていくと、
おのずと物語が醸し出されてくるようで、
いろいろ気づかされることが少なくありません。
この写真集のクライマックスは、
今年行われたどんと祭りに集まった人の顔を写した3枚の写真。
アップでとらえられた三人のお顔に、
編集しながら
何度も見入ってしまいます。
なんという表情でしょう。
灯を見ているそのお顔から、
陶然、恍惚ぐらいしか思い浮かびません。
あるいは法悦、三昧、慈悲、悲願、
のお顔ともいえるでしょうか。
この表情に、
たとえば役者が近づこうとしたら、
どれだけの稽古と
演出の手が加えられなければならないか、
天才的な役者と演出家が
資本主義に縛られない仕込み期間を経ても、
めざす表情が実現可能かどうかあやしい気がします。
この写真集が完成したならば、
アレクサンドル・ソクーロフ、
アンジェイ・ワイダ、
ピーター・ブルックの三人に
ぜひ見ていただきたいと願っています。
恩師竹内敏晴にお見せできなかったことが悔やまれます。

・梅雨空を眺め飲む酒蕩けたり  野衾