下の下

 髪刈りて歩にリズム合う帽子かな
 ある食べ物屋さんでの話。
 美味しい和食に舌鼓を打ち、ああ腹いっぱい食べた、美味しゅうございました、ごちそうさまでした、と席を立ち勘定を済ませました。
 ふと見ると通路横の座敷に顔見知りのご夫婦が和テーブルを挟み向き合って座っておりました。お先に失礼します、と、わたしはあいさつをしました。奥さんはちょっと目礼したようでしたが、声に出すことはありませんでした。ご主人はと見ると、通路がわに足をべろりと投げ出し、家でくつろぐかのように仰向けに寝て、頭だけ壁で斜めに支え、こちらを向いているのでした。あいさつを返す風でもありません。
 べつにわたしがこのご夫婦と反目し合っているわけではありません。どの人があいさつしても、いつもこんな調子なのです。他の客がいても、だれ憚ることなく傍若無人に妻は夫をののしっています。犬も食わない言葉が飛び交います。だめですねこんなのは。
 三つの子に「あいさつしなさい」と教えている母親(最近は少なくなりました)を見かけますが、三つ子の教えが出来ていないのでしょう。よほど生まれ育ちが悪い(悪すぎ)か、プライドが高すぎ劣等感にさいなまれ捻じくれた人間かのどちらかだと思います。人を人とも思わない、あいさつもできない、表面づらは良くても心のうちで人を差別する、無神経で鈍感で非礼で何様のつもりかわからぬような人間が、わたしは嫌いです。
 刈りし草馬小屋にあふる青青と
 若き父風が眼を射す草競馬

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