山の気

 先日、吉野の金峯山寺(きんぷせんじ)1300年間の歴史の中で二人目という千日回峰行を満行された塩沼亮潤さんに会ってきた。
 千日回峰行は、1400メートルほどの高低差のある吉野の山、往復48キロを1日16時間かけて歩く(というか、走る)というもの。比叡山延暦寺でも行われるが、金峯山寺のものは、さらに厳しい。
 夜中の11時半に起き、まず滝に打たれ、それから歩き出す。目的の山の頂上に着くのが朝の8時半。折り返して山を下り、寺にもどってくるのが3時半。
 千日と言っても、霜が降りはじめる秋口から雪のある季節は山に入れなくなる。1年に4か月しかできない。9年間で満行。
 塩沼さんに尋ねたところ、行を始めてしばらくすると、最初は恐ろしい幻が現れ、次に観音様のような美しい幻が現れた。最後の二年ほどは一切の幻が現れなくなった…。塩沼さん曰く、「一度も行きたくないと思ったことはありません」「今ふりかえって、あの時もう少しこうしていれば良かったという思いはありません」。台風がくる時には、その一週間ほど前から山の匂いが変わるらしい。「今、その感覚は眠っているけれど、山に入ればもどってきます」
 満行の後、金峯山寺のご住職に言われた言葉は、「行のことは捨てなさい」だった。
 今、塩沼さんは仙台秋保(あきゅう)にある慈眼寺の住職をしておられる。仙台駅からバスで秋保までは約1時間半。学生の頃、陸上部に所属していたわたしは、その道を走ったことがある。
 秋保の山々の気、塩沼さんの溢れんばかりの、いい気をいただいて帰ってきた。継続の力をまざまざと思い知らされた。

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