間違い電話

 午後5時頃だったか、ケータイが鳴った。パソコンに向かいパンフレットを作っている時だった。メールなら分かるが、電話は珍しい。
「はい」
「もしもし。あれ!? あのー、どちらさまですか」
「このやろう。電話してきて、どちらさまはねーだろ。みうらだよ」
「あ。せんせー?」
「ん? だれ?」
「Kです。ごめんなさい。まちがえちゃった。友達にかけようとして…。ごめんなさい。仕事中でしょ」
「いいよ。だいじょうぶ。久しぶりだね…。**には行っているの? 改装工事をするらしいよ」
 すぐに電話を切るのは、なんとなくためらわれた。
「最近、行ってない。いつも見てるよ」
 見てる、というのは、この日記のことか。
「元気そうだね」
「元気になったんだ」
「よかったね。**のママが最近来ないの、って言ってた。今度、一緒に食事でも、ね」
「そうだね…。ところで、下の名前、なんだっけ?」
「え。わたしの? 忘れたの? やだなー、もう。○に美しいで○美よ」
「○? 絹とか麻とかの○か? そうか。そうだったな。じゃあ、今度食事でも」
「忘れないでね」
 名前のことか。食事の約束のことか。
 Kさんは、わたしが陸上部の顧問をしていた頃のマネージャー。その後、行き付けのスナックで偶然出会い、意気投合。あれから3年。Kさんは歌がめっぽう上手い。

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