椿姫

 

・蒔くことも刈ることもせず夏の雲

東京文化会館にて、
ハンガリー国立歌劇場による
ヴェルディ作曲『椿姫』を観てきました。
原作は、
アレクサンドル・デュマ・フィス。
デュマ・フィスは、
『モンテ・クリスト伯』の作家アレクサンドル・デュマの息子。
主人公のヴィオレッタ役は、
ギリシャ出身のディミトラ・テオドッシュウ。
ヴィオレッタ役は日によって
もうひとり、
イタリア生まれのエヴァ・メイも務めたのですが、
新聞で公演の広告を見たときに、
わたしのなかの椿姫のイメージに近い
ディミトラ・テオドッシュウが主役を務める
日と会場にしました。
デュマ・フィスの原作を岩波文庫で読んだのは、
今から三十五年前。
大学生のときでした。
娼婦マルグリット・ゴーチェが気の毒になり、
激しく同情し、
自分を恋人の青年アルマンになぞらえ、
マルグリットに
まったく恋をしてしまったのでした。
読み終わって、
あまりに感動し呆けてしまい、
ふらふらと何も手につかず状態、
工学部の学生だった畏友I君に本を貸したところ、
I君もガッツリ打ちのめされたらしく、
負けず嫌いのわたしとI君は、
互いに感動比べ(!?)をしたものでした。
以来、三十五年。
母のようなディミトラ・テオドッシュウ演じる
ヴィオレッタの歌にあわせ、
「さようなら、過ぎ去った日よ、美しい夢よ」
の日本語字幕が出たとき、
過ぎ去った日を懐かしく
少し切なく思い出したりしました。
若い人を除き、
会場にいたすべての人が
そうだったのではないかと思います。
ヨーロッパの熟成された、いいオペラでした。

・Tシャツをくぐり下方の腹眺む  野衾