源氏物語と風

 

・境内にこころ鎮めて春の闇

引きつづき源氏物語を読んでいますが、
このごろ風に関する記述に目が行きます。
千年前の京都。
コンクリートも鉄骨もない。
現代でも、
台風は言うに及ばず、
そうでなくても風の音は千変万化します。
風の名称が日本語には多いはず。
平安朝のころとなれば、
夜の闇とあわせ、
それはそれは不気味に変化したと思われます。
そこに男が忍んで来る。
ハラハラドキドキは、
恋のおののきと一体となって否が応でも揺らめく。
男たちはまた、
そうした時をねらって外出を試みる。
源氏物語を彩る女たちの情念を下支えし、
ときに盛り上げ、
ときに撓め、
ついには怨霊となって出没しかねまじき
苦へと収斂させるのは、
風の存在ではないかと思えてきます。

・寄りて来しぬるり冷たき鹿の鼻  野衾