蜘蛛

 部屋にときどき蜘蛛が出る。きのうも。朝、起き掛け、布団のうえに小さい黒い蜘蛛がいたから、捕まえて逃がしてやろうと思った。そっと手を近づけ掴もうとするのだが、素早い動きですり抜ける。何度か試みたのち、やっと捕まえ、つぶさぬように、結んだ手のひらが空洞になるようにしてベランダまで運び、手のひらを開いた。ところが、手に張りついてなかなか離れてくれない。ササッと二、三度振ったら、やっと離れてコンクリートの上に落ちた。窓を閉め、しばらく見ていたのだが、動かない。いつもなら蜘蛛の子を散らすように逃げていくのに、どうしたのだろう。もしや、手を振って落としたことでスピードがつき、怪我でしたのだろうか。心配になり、窓を開けもう一度ベランダに出た。指で少し蜘蛛を押してみた。動きが鈍い。やはり怪我をしたのか。申し訳ないことをしたような気になり、サンダルを脱いでまた部屋に戻った。
 ソファーで少しうとうとしたようだ。太陽の光が暑いぐらいに窓から差し込み、ハッと眼が覚めた。窓のところに行ってみると、さっきの蜘蛛はどこにも見当たらない。暖かくなって、元気を取り戻し、どこかへ逃げていったのだろう。