ハリネズミ

 

・白梅や寒さ変らず日を重ぬ

朝、自宅マンションから階段を下り、
ゴミ集積所の角を右へ、
保土ヶ谷橋の交差点に向かいます。
毎日のことなので、
交差点の遥か手前から、
クルマの行き交いで信号の順番が推し測れます。
きのうのことです。
金色のダウンコートを身にまとったおばさんが
わたしの数歩先を歩いていました。
小柄なおばさんで、
Sサイズ(であろう)のコートもたっぷりと、
ふくふく温かそう。
足先が二つ、
ちょこんとコートからはみだし、
ちょこちょこと歩きます。
と、
突然、
おばさん、駆け出した。
クルマの流れが変ったのです。
おばさん、速い速い! ピュ~~~~!!!
足の回転が見えないぐらい。
ダウンコートに
ターボエンジンでも付いているのか、
スーッと滑って
見る間に目の前からいなくなりました。
まるでハリネズミのごとく。
呆気にとられました。
わたしが交差点に差しかかり、
赤信号で足止めを食らったとき、
金色ダウンのおばさんは
とっくに信号を渡り遥か前方、
中華堂の辺りを静かに歩いていました。

・人間の音を掻き消し雪が降る  野衾