えらい!

 夕方、営業の奥山さんがツーと寄ってきた。仕事上の報告か相談事かと身構えたが、違った。曰く「『大菩薩峠』全巻読み終えました」。「そうか」。拍手ーっ!! 社員一同で。パチパチパチパチ…。『大菩薩峠』はなんといってもすごい小説なので、わたしは社員のだれかれとなく薦めてきた。が、全巻読破したのは奥山さんが二人目。えらい!「勝小吉の『夢酔独言』からの引用は19巻と20巻でした」。「そんな最後のほうだったかな。そうか」と読んだ者でなければわからない会話。勝小吉は海舟の父。中里介山は小吉の自叙伝『夢酔独言』を読み、面白いというので自分の小説の中にちゃっかり引用し紹介している。現代の感覚からすれば、あんな大量の引用って許されるのか、とも思うけれど、人間界の諸相を曲尽して、大乗遊戯の境に参入するカルマ曼陀羅の面影を大凡下の筆にうつし見んとするにあり、ということだから全てOKなのだろう。