マハーヴァギナまたは巫山の夢

 

・ものいはぬ空を湛へて山眠る

三冊目となる自著を上梓しました。
小説です。
以前勤めていた出版社時代に、
スーパーエディター安原顯さんを知り、
歯に衣着せぬ
おもしろいことを言う人だなあと思っていたら、
安原さんを中心として
創作学校なるものができました。
安原さんに会いたい一心で応募し、
めでたく第一期生になったはよかったのですが、
毎週のように小説を書かされ
困ってしまいました。
小説など書いたことがなかったからです。
とんでもないところに来てしまったとホント思いました。
それでも根がマジメ(笑)なものですから、
見よう見まねでこつこつやっていたら、
褒められるようになり、
最高点を取ったりもして、
すぐに増長しました。
俺さまが本気を出せばこんなものよダハハハハ。
まったく田舎モノです。
そんな時でした。
いつだかの授業で、
安原さんの講師席に呼ばれ、
わたしが提出した小説を題材に、
その場で文章を徹底的に直されました。
バッキャヤロー!!
わたしは、だぁ!!
いちいち主語をつけてんじゃねーよっ!!
源氏物語の昔から、
日本語は主語がなくてもわかんだよっ!!
ほとんど罵倒の連続。
いや、びっくり。
増上慢の鼻はへし折られ。
眼が ・ ・
他人からあんなに頭ごなしに怒られた、
叱られたことはありません。
わたしの場合、
子どものころから
だいたい褒められて育ちました(笑)から。
安原さん、
もう顔を真っ赤にして、
口角泡を飛ばしていきり立っています。
そばにいて、
なんというか、
だんだん、
安原さんと二人で
コントでもやってる気になっていました。
そして、
直感が走りました。
ははあ、
この気合いでかからんといけないのだな。
文というのは、
これぐらい、
のりうつったり
のりうつられたりするものなんだな。
そのとき感じたことを、
安原さんに申し上げませんでした。
その後、
わたしは仲間と春風社をつくり、
安原さんの本も二冊出させていただきましたが、
安原さんから発せられた問いについては、
手付かずのままになっていました。
『出版は風まかせ』『父のふるさと』を出したあと、
その問いがだんだんふくらみ、
ふくらんで、
空気頭になっていくようで、
このままではいけない気がしました。
けじめ、とでもいいましょうか。
ですから、
今回の本は、
安原さんからいただいた問いへの答案でもあります。
解説は、創作学校で
安原さんといっしょに定期講師を務めておられた、
フランス文学者で学習院大学教授の
中条省平さんがご執筆くださいました。
挿画は、林晃久さん。
装丁は、間村俊一さん。

・寒さもてあらゆるものを閉じ込めよ  野衾