天才

 世に天才と呼ばれる人は数多くいるが、万人に知られていなくても天才はいるのだろう。最近読んだ本『万病を治せる妙療法 操体法』の著者である橋本敬三氏(1993年没)もその一人。橋本氏は明治30年福島県生まれ。西洋医学を修めるも、それに満足しない患者が民間医療を頼っていく姿を目の当たりにする。民間医療を施す人々を訪ね、名人と聞けば自ら頭を下げ、その技を教えてもらい集大成した。それが体操の二文字を逆にした操体法である。
 操体法の基本となる考え方は、どこかに痛みがある場合、そこを無理に動かすことをしないで、動かして気持ちのいい動きを探すことにある。「とにかく痛みから逃げる運動でよくなるのですから、全身に馬鹿力を入れずにフワーリと気持よく動いて全身運動すれば、その個所の痛みは消えるようになっているのです」。橋本氏はまた、「人間は動く建物である」ともいう。この考え方は西式体操で有名な、これも天才の誉れ高い西勝造氏も言っており、部分より全体のバランスを見ていくということで共通している。天才と呼ばれる人は、体とこころと精神を尽くし、一代で物事の本質に迫り本質をつかむようだ。そして、それはなかなか伝承されにくい。