膝ギャザー

 先日、カメラマンの橋本さんが来社した折のこと。いつものように、わたしの机のところでふたり椅子に座り、膝がくっつくぐらいの距離で、いろいろと仕事のことやそうでないことなどを話した。橋本さんの服装は、厚手のセーターにジーパン。その時、わたしの眼は何度も橋本さんの右膝に奪われた。椅子に座っているから、本来なら膝のところは引っ張られ丸く張られるはずなのに、そうなっていない。手のひらを膝頭にあて、そこに小さな山でも作るみたいに布が手繰り寄せられギャザーになっているのだ。
「どうしたの、それ」とわたし。
「え?」と橋本さん。
「膝」
「あ、これ。破れたから自分で縫ったんだよ」
「破れたまんまが流行だから縫うことないのに」
「それじゃダメなんだよ。破れたところから運が逃げていくから」
「そうかな」
「そうですよ」
「それにしてもさ、もっと上手く縫ったらどうなの。布が中央に寄っているし、糸もそれしかなかったの? かなり目立つよ」
「あはははは…。ここに座ってから三浦さんがちらちらちらちら見るからさ、よほど気になるんだろうなと思っていたけど、やっぱりか。そういえば、電車の中でもね、高校生たちが俺のほうをちらちら見ていたよ。俺を見ていたんじゃなく、膝を見ていたんだな」
「そうだと思うよ。ここを見てくれっていうほど目立つもの」
「そんなに」
「かなり。橋本さんらしくて、いいけどね。でも、すごいね、その縫い方。わざと布を寄せて縫ったみたいだし、普通は、……………… となるところが、- - - - - - - - だもの。高校生も見るはずだよ。あはははは…。しかし、それ、何度見てもすごいね。見てるだけで元気になるね」