権造おばさん

 

・冬の雨止むで青空ひろがりつ

木曜日は気功教室の日なのですが、
始まる前に
横浜駅の地下街にある魚敬(うおけい)で
お寿司を食べることにしています。
二皿ぐらい食べた頃だと思いますが、
小柄な中年の女性が店員に案内され、
わたしの隣に座りました。
なんとなくですが、
人の目をひく気配があって、
ちらと目をやると、
サングラスなのでしょうか、
眼鏡をずいと頭の上にずらし、
「ああ疲れた!」と一言、
店員に「ビールちょうだい」
店員「生にしますか? 壜にしますか?」
「ええと、壜。ああ疲れた」
よほど疲れているようです。
何をしている人なのでしょう。
格好はそう珍しくないのですが、
立ち居振る舞いが、
ビートたけし演じるところの
鬼瓦権造(おにがわらごんぞう)に
あまりにも似ています。
ドカジャンを着せたかったなあ。
カーブしているカウンターに立てかけてあるメニューを指差し、
「ええと、イクラ!」
板前さんから皿を受け取り、
お寿司を箸で摘まむときも、
両肩を怒らせ右肘を「く」の字にして、
その姿たるや鬼瓦権造そのもの。
またメニューを指差し、
「ええと、エビエビ、エビちょうだい!」
くいくいっ。
「うめぇ~!」
権造おばさんが二杯目の生ビールを注文したところで、
わたしは席を立ちました。

・何やらの秘密めかして落ち葉かな  野衾