車中

 

・日に一度下がり秋とはなりにけり

「失礼ですが、
ずっとおしゃべりしているつもりですか?」
「え?」
「さっきからおしゃべりに夢中なようですが」
「あら、ごめんなさい。
うるさかったかしら」
「本を読んでいなければ気にならないと思いますが、
あいにく本を読んでいるものですから」
「あら、ごめんなさい。
気づかなかったものですから。
この方、本を読んでいらっしゃって、
わたしたちの話がうるさいようですよ」
「……」
「ええ。そうそう。
でも、悪くない? そりゃそうだけど」
「いえ。くだらないおしゃべりをどうぞつづけてください。
わたしは向こうへ行きますから」
そんなふうな会話を想像するも、
実際には出来もせず、
わたしは
いかにも次の駅で降りるタイミングで
黙って席を立ち、
車輌の端っこのドアの側へ移動し、
窓の外を見遣り、
加藤楸邨の俳句を思い浮かべ、
それからおもむろに
文庫本に目を落として、
おばさんたちの会話に邪魔され
頭に入らなかったところから読み返しました。

『突撃! よこはま村の100人 自転車記者が行く』
の紹介が河北新報に掲載されました。
コチラです。

・鰯雲勉学思ふ季(とき)もあり  野衾