ジョルダーニ家の人々

・ウグイスは七月なのに啼くんだね

観ましたよー。
六時間三十九分の長丁場。
午後一時四十分に始まり、
三度の休憩が入り終ったのが九時十五分。
神保町の岩波ホールにて。
あまりの長さに、
途中何度か寝るかなと思いきや、
ていねいに撮られた細部に眼を奪われ、
眠る間もなく、
映画の面白さを久しぶりに堪能した気がしました。
ほんとうに面白かった。
現代のイタリアを舞台にした家族の物語で、
携帯電話、
それもスマートフォンが
物語の大事な場面でさりげなく使われ、
お、現代だな、
あ、うまいなと思いました。
少しだけ物語に触れると、
どこにでもあると思われた家族が、
末の息子の交通事故死から大きく歯車が狂い始めます。
平穏な日常というものが、
危うい奇跡的なバランスの上にしか
成り立たないものであると、
あらためて気づかされます。
登場する人物たちのだれもが弱く、
かなしく、
いとおしく思えてきます。
息子の死を受け入れられず、
ひとり精神の彷徨をつづけていた母が、
父の本気の語りかけにうなづき抱き合うシーンは涙を誘います。
この場面がストンと腑に落ちるために、
六時間半があったのだと合点がいきました。
何よりも、
一人ひとりの悲しみの表情、
喜びの表情、
切なさの表情、
あきらめの表情に“いま”を感じました。
そして必ず、
だれもがだれかの役に立っている。
必ず。
そのことが悲しいのです。
すばらしい映画でした。

・蚊遣香焚いて脛打つ夕べかな  野衾