夜の床屋

 

 冬の星親しき人の住処とぞ

一日中ゲラや本を読んで疲れてきましたから、
財布とケータイを持って外へ出ました。
このごろ通っているダンサブルな床屋へ。
すでに暗くなっていましたので、
いくら流行っている床屋でも大丈夫だろうと。
交差点でひょいと見上げると、
床屋の窓ガラスに人影はありません。
信号が青に変り、
小走りで渡って階段をとんとんとんと駆け上がります。
ドアをそっと開け恐る恐る見ると、
だ~れもいません。
「こんにちはー」と大声を出したら、
奥から床屋のご主人が現れました。
「どうぞ」
「一番短いのでお願いします」
「はい」
無駄口は一切きかず、
ダンサブルに刈っていきます。
顔を剃ってもらい、
そろそろ終りかと思ったころに、
一人また一人と客が入ってきました。
お代を払いドアを開け、そっと閉めると、
中から「どうぞ」「いつものように」「はい」
ダンサブルな床屋は夜も踊っています。

写真は、なるちゃん提供。

 寒空や尻に鍼打ち仰け反れり