この頃、晴れた日にはベランダに猫が来る。三毛猫。一匹のこともあれば、二匹のことも。今朝も来ている。今日は一匹。飼い猫なのか、野良猫なのか。
 東向きのベランダに植物を置いてあるのだが、数年前、ゴミ捨て場に捨ててあった木の台を、鉢を置くのにちょうどいいと思って拾ってきた。猫は、その台の上に陣取り、丸くなり、朝日を浴びて気持ちよさそうに目を細めている。窓越しに、猫とわたしの距離は、ほんの1メートルほど。ときどき目が合う。驚くでもなし。今日も来てたのか。やあ。……
 子供の頃、秋田の家では猫を飼っていた。黒い、尻尾の丸い猫と決まっていた。座っていると寄ってきて、あぐらの中に入ったり、腕枕をしているところに擦り寄ってきしたりして、暖かくて気持ちよかった。それと、あの、ぺたんと折り曲げて楽しんだ耳。梶井基次郎の小説で、ホッチキスでぱちんとやりたくなる、みたいなことが書いてあるのを読み、そうそう、そんな感じと思ったものだ。……
 ベランダの猫、安心しきっているのか、よほど気持ちいいいのか、彫刻みたいに身じろぎ一つしなくなった。