お急ぎのところ

 

 友来り酒瓶もつ手の頼もしき

先週金曜日、
横浜駅で横須賀線と東海道線の電車が、
上下線とも立ち往生しました。
戸塚-大船間の線路に人が立ち入った
ことによるものと、
何度もアナウンスがありました。
わたしは下り横須賀線の電車に乗っていました。
「暑いからなあ」
ひょっと見ると、
耳から毛の生えた中年のおっさんが、
強烈な口臭を辺りに撒き散らしながら
独り言を言っています。
たまりません。
でも、混雑した車内で逃げることも叶わず、
わたしはかろうじて体の向きを変えました。
「暑いからなあ。わかるよ。ぼーっとしていたんだろう」
同じセリフの車内アナウンスが、二度、三度。
そろそろ五分を過ぎたでしょうか。
「なんだよ。
だったら、走ってくることなかったんだよ。
あーあ。
この電車に乗ったのが不運だったってわけか。
しゃあねーな」
車内アナウンスは、
線路に立ち入った人の安全を確認でき次第、
徐行運転を開始すると告げています。
「人に迷惑をかけちゃいけないよ。
学校で習わなかったのかね。まったく。
迷惑かけちゃいけないんだよ、人に」
中年のおっさんの語調はだんだんと強く、
勢いを増していくようです。
車内アナウンスがまた、
線路に立ち入った人の安全を確認でき次第、
徐行運転を開始すると十年一日のごとくに告げています。
「わかってんだよ。わかってんだよ。
何回同じこと言ってんだよ。ったくよー。
いいんだよ確認なんかしなくたって。
だれが確認してくれなんて言ったよ。
好きで線路に入ってんだからさ、そいつ。
引っ殺しちまえ!」
電車はそれから七分後、
約三十五分遅れて横浜駅を発車しました。
「お急ぎのところ、電車が遅れ
皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫びいたします。
電車は約三十五分遅れて横浜駅を出ました。
次は保土ヶ谷ー。保土ヶ谷ー」
ったくよー。

 朝焼けを浴びて酷暑の烏かな

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