毛抜き男とリンゴ女

 

 ふるさとや雪中ふかき三山碑

小説のタイトルみたいですが、実際の話。
道を歩いていると、いろんなひとに出くわします。
電気シェーバーで髭を剃りながら横断歩道を渡る男の話を
ここに書いたことがありますが、
このごろまた変ったひとを目にしました。
ひとりは毛抜き男。
朝、保土ヶ谷駅に向かって歩いていたとき、
商店街を抜けたあたりで、前を行く男性に近づきました。
少し猫背で、後ろから見ても、
歩きながらなにやら顔の辺に手をやっているのが分かります。
追い抜きざま、ひょいとみると、
口元の伸びた髭を毛抜きで抜いているではありませんか。
年の頃、三十代半ばでしょうか。
電気シェーバーの男も面白かったけど、
こちらも相当に面白い。
朝から愉快な気分になりました。
また別の朝、紅葉坂の交差点を渡って、
心臓破りの長い坂を上っていた時のことです。
県立図書館の前の坂を、リンゴを丸齧りにしながら
中年の女性が下りて来ました。
このごろ丸齧りも珍しいのに、
歩きながらですから、相当に奇抜です。
よほど歯がいいのでしょう。羨ましいかぎり!
ここでもまた元気をもらいました。朝食だったんですかね。
出版人としては、
どういう経緯から、歩行中に毛を抜いたり、
リンゴを丸齧りする仕儀になったのであるか、
二人に尋ねてみたい気にもなりました。

 夢を持てと一人好い気の師走かな

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