ご縁の歯車

 

 電線から嫌味で糞か寒鴉

学生時代、青江舜二郎の本を読んでいたことが、
今の仕事に繋がろうなどと、だれが想像しただろう。
青江は秋田市出身の著名な劇作家で、ご長男の大嶋拓氏が今
異端の劇作家 青江舜二郎 ~激動の二十世紀を生きる~
を秋田魁新報に連載している。スコブル面白い!
名文家・青江のDNAはたしかに大嶋氏に伝えられていると見た。
大嶋氏の担当で秋田魁新報社文化部デスクのS氏は、
わたしの高校の同期生。
一昨日、大嶋氏と電話で話していて驚いたのは、
青江舜二郎が武塙三山(祐吉)と懇意にしていたという事実。
知らなかった。
武塙三山については、拙著『出版は風まかせ』で少し触れたが、
無医村だった故郷の村に医者を招聘した篤志家で、
秋田魁新報社社長、秋田市長、上井河村村長を歴任した。
またわたしは、青江の『狩野亨吉の生涯』で
‘怪物’狩野亨吉なる人物を知った。狩野も秋田出身である。
安藤昌益の『自然真営道』を発掘した人として夙に有名だが、
夏目漱石の小説のモデルになったり、
一校の校長だったり、蔵書十万冊を東北大学に売ったり、
極めつけの読書家だったにもかかわらず、
自らは一冊の本も残さなかった。
名利の埒外にあった人(新井奥邃を彷彿とさせる)と言えるだろう。
露伴や漱石や谷川徹三ら錚々たる学者・文人たちから
一目も二目も置かれていた傑物であったのに、
(のに、というのも変だが)
「性」に異常なほどの関心を示した。
でも(でも、というのも変だが)
謹厳実直な高潔の士であることに変りはなく、
松岡正剛によれば、
社会派弁護士として名を馳せた正木ひろしは、
狩野亨吉を「国宝的人物」と称えたという。
ご縁の大きな歯車がまた少し動き始めたようで、
わくわくしてくる。

 ひょんひょんと斜めスキップ寒鴉

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