旅の哀しみ

 竹林の笑ひ涼しき雲見かな

『男はつらいよ』で浅丘ルリ子演じるリリーさんと
寅さんが浜辺で語り合う場面があります。
有名な「寅次郎忘れな草」の一節。
リリーさんは旅から旅への歌い手で、
寅さんから「ちょいとした俺だね」
なんて冷やかされたりもします。
リリー「兄さんなんかそんなことないかな…。
夜汽車に乗ってさ、外見てるだろ、そうすっと、
何もない真っ暗な畑なんかにひとつポツンと灯りが
ついてて、
あー、こういうところにも人が住んでるんだろうなぁー、
そう思ったらなんだか急に悲しくなっちゃって、
涙が出そうになる時ってないかい?」
寅「うん…。こんなちっちゃな灯りが、
こう…遠くの方へスーッと遠ざかって行ってなぁー…
あの灯りの下は茶の間かな、
もうおそいから子供達は寝ちまって、
父ちゃんと母ちゃんがふたぁりで、
湿気た煎餅でも食いながら紡績工場に働きに行った
娘のことを話してるんだ、心配して…。
ふっ…、暗い外見てそんなことを考えてると汽笛が
ボーっと聞こえてよ。なんだか、ふっ!…っと、
涙が出ちまうなんて、そんなこたぁあるなあ…分かるよ…」
(引用は、バリ在住十九年の画家・吉川孝昭さんのサイト
男はつらいよ 覚え書ノート」からのコピペ。わたしは
このサイトのおかげでますます『男はつらいよ』が
好きになりました)
そういう、それこそ不意に襲ってくる哀しみは、
旅をしたことのある人ならだれでも、
(長旅でなくても、例えば帰省の列車の中でも)
感じるものではないでしょうか。
寅さんはフーテン、リリーさんは旅芸人ですが、
職業とは別に、旅の哀しさ切なさが人生を想わせ、
万人に共通するものだから、
多くの人々の共感を呼ぶのでしょう。
二人のこの場面、わたしは最高に好きです。

 オレ食ふなアレを食へよと蚊を払ふ

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