うれしい床屋さん

 ぶん回し青大将を叩き付く
なじみにしている床屋さんがありまして、
月に一度は事前に予約を入れ頭を刈ってもらいに行きます。
このごろますます髪の毛が減り、
坊主刈りでもありますから、
仕上げまで二十分と掛かりません。
日曜日に電話をしました。
「今日、空いてますか?」と訊くとだいたい
「残念ながら空いています」と、
トホホな答えが返ってくることが多いのですが、
今回は違っていました。
「いやぁ、あいにく一日ふさがってましてね。
夕方七時ぐらいでしたらなんとか」
かみ殺してもうれしさが声ににじみ出ているようです。
「あいにく一日ふさがってましてね」
言いたかったんでしょうねぇこのセリフ。
約束の七時をちょっと過ぎたころに訪ねると、
前の人がまだ終わっていませんでした。
五分ほど待ってわたしの番になり、
椅子に腰掛けました。
「よかったじゃないですか」
「ええ、朝の六時半からかかって休みなしです。
これでやっと先月より少しよくなったぐらいですかね。
でも、こんなのは年に四回ぐらいですから…。
お客さんの後もう一人予約が入っているんですよ。
十四時間働いたことになります」
「帰ったら一杯ですね」
「ええ。久しぶりに旨いビールが飲めま、あ、
いらっしゃいませ。そこに掛けてお待ちください」
さっぱりしておカネを払うと、
長髪の青年がソファから立ち上がった。
 ぶん回し青大将が卵吐く

4a4932912f67e-090607_0947~0001.jpg