駅蕎麦

 

・春の浜利休鼠の雨に酔ふ

かき揚げ蕎麦が食べたくなり、
角のカウンターに向かい
そろそろ食べ終えようとしていたとき、
四十代後半か、
あるいは五十代、
ひとりの女性が店に入ってくるなり、
「スイカと現金の併用はできないんでしょうか?」
と言った。
年配の女性店員は、
「併用はできないんですよう」
「そうですか…」
「いくらお持ちなんですか?」
「…………」
「何を食べたいんですか?」
「スイカと現金を合わせると350円払えるなあと思って…。
前から食べたいなぁと思っていたもので…」
寂しそうに出ていこうとする女性を追いかけ
店の横のドアを開け出て行った女性店員は、
チケットの自販機を鍵で開け、
何やら操作し始めた。
と、
先ほどの女性が嬉しそうに戻ってきて、
カウンター中央に向かい
ちょこなんと椅子に腰かけた。
わたしはグラス一杯の水を飲み干し店を出た。

・結界の行きはよいよい霞かな  野衾