寒中水泳

 

・精神一到若き祖父あり寒の川

九十八で亡くなったわたしの祖父は、
若いころそうとう無鉄砲をやったらしく、
二の腕には「大力」
と小さく刺青がしてありました。
それについては、
若き日の過ちであったと
反省している風もありましたが、
無鉄砲をすべて反省しているわけではなく、
むしろ自慢することも間々ありました。
そのうちの一つ。
わたしのふるさとは井川町
といいますが、
名前が示すとおり、
井川という小河川が町を貫いています。
若き日の祖父は、
井川の表面が氷に覆われた冬の日、
「もし、氷を割って寒中水泳を断行すれば酒一升おごってくれるか?」
と悪友に問いかけた。
「よし、いいだろう。一升やるよ」
即、契約成立。
そこには、
蛮勇をふるって氷を割り、
寒中水泳を蛮行する若き祖父がいた。
わたしは、
そのことを祖父から
何十遍聞かされたか分かりません。
祖父がかんらかんらと
笑いながら楽しそうに話す話を、
「またあれか」
と思いつつ、
聞きあきることはありませんでした。
祖父にとって、
痛快この上ない出来事であり、
思い出だったのでしょう。

・恋よりも友が秘鑰のクリスマス  野衾