セロファン俳句

 

・朝寒の夢で湯に入る二度寝かな

阿部筲人(あべ・しょうじん)『俳句 四合目からの出発』は、
あの辛口文芸評論家谷沢永一が絶賛したほどの
いたって真面目な俳論書なのですが、
真面目なだけに、
かえって笑える箇所が少なくなく、
たとえばこんなの。

○軽羅の衣風に恥骨の際立てり

という例句を引用した後、
(この例句自体、もう笑える。
「軽羅の衣」は「けいらのい」
あるいは「けいらのきぬ」と読ませるのか)
阿部筲人いわく、
「薄地の、多分洋装でしょう、ま向かいからの風に、腿にぴったり貼りついて、
おそその辺がぷっくりふくらんだと、一応写実風に描きますが、
作者はつまらぬ所に目をつけたことが明らさまです。
言い方はドライで、気分的には、必ずしもわい雑下劣ではありませんが、
興味の中心が浅い所に止まりました」
こういう句を称して、
セロファン俳句。
そのこころは?
薄っぺらで透明スカスカ。
あはははは…
わたしが言うんじゃありません。
阿部筲人がそう言うんです。

・北風や慢心するなの声を聴き  野衾