厚い茄子

 

・蜘蛛の巣の雨の滴の地に落ちず

昼、野毛にある
なじみの店にイシバシと行きましたら、
女将さんが、
「きのう漬けたものですが、どうでしょう」
と言って、
茄子の漬物をくださいました。
女将さんの漬物は絶品で、
いついただいてもハズレ無し。
しゃきっとした茄子がほどよく漬かっており、
きゅっきゅっ
とする食感を楽しんでいるうちに、
あっという間に、
最後のひと切れになりました。
イシバシおもむろに、
また及び腰に、
「あのー、すこし厚いようですが…」
切り身の厚い最後の茄子を
自分が食べていいのか
と許可を欲しているようで、
その言い方があまりに可笑しく、
呵々大笑。
「いいよいいよ。食べたらいいじゃん!」
そこでイシバシ、
厚手の切り身をつまんで口中へ。
と、
「あら。口のなかで二つに割れた」
「バカ野郎、あはははは…。いまさらどうするんだよ」

・梅雨の中くっつきそうな傘が行く  野衾