クリスマスプレゼント!!
食品偽装、年金、世界的金融危機など深刻でどれも解決困難な問題に覆われた感のある今年だが、パナソニック教育財団とパナソニック株式会社は、小社が今夏刊行した『わしといたずらキルディーン』を買い上げてくださり、全国に5100ある国公立の幼稚園にプレゼントした。
『キルディーン』は、元はと言えば、皇室医務主管で日本学術会議会長の金澤一郎先生が小社にお問い合わせくださったことから始まった。
金澤先生は子供の頃、『キルディーン』の旧訳『わし姫物語』を母親から読み聞かせられ、以後、思い出深い一冊となった。
有識者16人で構成される「こころを育む総合フォーラム」(事務局:パナソニック教育財団)で、日本人のこころのありよう、とりわけ子供たちの心をいかに育むかが話し合われた際、金澤先生は『わし姫物語』を取り上げ、紹介し、復刊できないものかと考えられたようだ。
『わし姫物語』は、精神分析で有名なフロイトを日本に最初に紹介した心理学者・大槻憲二が訳したものであり、昭和十七年に講談社から刊行された。
金澤先生は、パソコンを開き「大槻憲二」をキーワードにして検索することを日課にしていたそうである。ある日、いつも通りにパソコンを開け「大槻憲二」で検索したら、大槻の孫にあたる長井那智子さんの『チップス先生の贈り物』(春風社)がヒットした…。これが金澤先生が小社に連絡をくださるまでの大まかな経緯である。
以後も、原書がロンドンの古書店で見つかったこと、皇后美智子様から「よいご本を読ませていただきまして」の御言葉を頂戴したことなど、奇跡的なご縁を賜り、今夏発刊にこぎつけることができた。
読んだ方々から、とくに子供たちからありがたい感想をいただいた。通信社に勤める知人は、自分の子供たちに何を読めとは決して口にしない主義だが、小学三年生の娘が『キルディーン』を読み、気に入って三度読んだという。おそらく娘が一冊丸ごと読んだというのはこの本が初めてのはずと知人は言った。
出版人としてちょうど二十年が経過したこの時期、『キルディーン』の刊行によって意を決するところがあり、気を引き締めていたところ、期せずして、パナソニック教育財団から思わぬお申し越しをいただいた。小社創立十年目のご褒美であるとの喜びもさることながら、全国の国公立の幼稚園に贈呈してくださるというので、何重もの喜びとなった。
金澤一郎少年がお母様から読み聞かせられた本が少年のこころに刻印されてから半世紀以上経って尚その灯は消えず、今全国の幼稚園の子供たちの元へ届くまでに、いかに多くの人のご縁をいただいたかを思わずにはいられない。また、金澤少年のお母様はどうして『わし姫物語』を少年に読み聞かせたのだろう。いくつか読み聞かせたうちの一冊だったのかもしれないが、お母様の我が子を思う情愛の深さが『わし姫物語』に乗り移り、少年のこころに響いたのかもしれない。読売新聞の永井記者は「奇跡の新訳!」として紹介記事を書いてくださった。
この本が、母と子のきずなを深め、子供たちだけでなく、子を持つお母様たちが元気に生きていくよすがになれば、出版人としてこれに勝る喜びはない。