雨の線

 

・春の雨息せき切って上る坂

かつて、
「雨音はショパンの調べ」
という歌があり、
あれは確か、
イタリアのガゼボという、
ひとの名前だか
虫の名前だか分からない、ひとの名前ですが、
とにかくそのガゼボ
が歌ったのを、
日本では小林麻美が歌ってヒット
したことがありました。
が、
今の季節の雨音は、
これはショパンじゃねーなと思います。
鏑木清方や
小村雪岱の本を読んだり絵を見たりしていると、
春の雨は春の雨でも、
日本の春の雨というのがあって、
日本画のすぐれたものに触れると、
これだ! と思うように、
音としてはやはり
三味線、琴が似合いそうです。
小村雪岱描くところの傘に降る雨の線を見たとき、
ああ雨は、
こんな風に見えるときが確かにある
と思わされ、
以来、
その感覚は体に染みつき、
雨を線と見るときに、
日本人の古くからのものを渡された気がします。

・我が胸に張り付く咳の貌を見し  野衾