こしかたの記

 

・杜甫ありて蒼茫の春吸ひにけり

鏑木清方(かぶらき・きよかた)といえば、
泉鏡花の挿絵も描いた日本画家ですが、
鏡花好きのわたしとしては、
当然のことながら、
鏑木さんへも興味が移り、
自伝『こしかたの記』(正・続)二冊を古書店で見つけ、
買っておいたのを
ようやくこのごろ読み始めました。
正編の二五三頁、
先輩絵師たちを紹介したあとの一文、
「これらの諸先輩は、かうした仕事を愉しんで、他に何を求める雑念もなく、
日夜動かす筆の先きの、その命毛を熟(じつ)と見つめて一生を送られたのである。」
に、
ほーと溜め息が漏れました。
命毛。
鏑木さんもまたそうした一生だったか、
あるいは、
そうした生涯に憧れたのかと想像します。
鎌倉に、
鏑木清方記念美術館がありますが、
戦争は嫌ですねえとつぶやいた鏑木さんらしく、
静かで瀟洒な記念館です。

・白き糞避けて電柱烏かな  野衾