マイナンバー

 

・立ち止まり立ち止まりして落ち葉かな

来ないな来ないなと
呪文のように唱えていたマイナンバーが
留守中に届いたらしく、
不在連絡票が入っていました。
ので、
出勤前、
早々に郵便局に出向きました。
九時前のこととて、
不在連絡票を手に持ったひとの列が、
受け取り窓口の前に出来ています。
わたしのすぐ前は、
このごろあまり見なくなったパンチパーマ強面のおっさんで。
実に実に落ち着きがありません。
ジャンパーのポケットに手を突っ込んだまま、
左足と右足に際限なく重心を移動させ、
必要なさそうなのに、
ときどきズボンを上げたり、
挙句の果てにその場で一回転したり。
やがて携帯電話を取り出しました。
「まだ並んでんだよ。わかったよ。そこに赤い紙あんだろ。ほら、なんとかナンバーの。
それ持ってきてくれよ。いいじゃん。持って来いよ。二度手間ヤだから」
間もなくキレイな女性が、
ピキピキしながら赤い不在連絡票を持ってきました。
奥さんでしょうか。
ピキピキしていますが、
キレイなことはキレイです。
パンチパーマをするぐらいのひとは、
キレイな奥さんをもらうのでしょうか。
やがて九時近くになって、
並んだ列の長さを見かねてか、
窓口の係りとは別の女性がそばに来、
「マイナンバー受け取りで来られた方は、
時間短縮のために、保土ヶ谷区の次の町名を教えてもらえますか?」
と言いつつ、
赤い連絡票を持ったひとから町名を聞きだし、
連絡票を取り上げていきました。
窓口は二人の係りがてきぱき動いているようですが、
荷物を受け取るまで相当時間がかかっています。
やっとのことで、
パンチパーマの順番になりました。
イライラがもはや極限に達していたようで、
「っんだよ。やくしてくれよ。こちとら急いでんだからさっ。ほら。これだよ」
「お客様、この荷物は係りの者がすでに持って出ていて、お渡しすることが出来ません」
「あん? あん? あん? っんだよ。っんだよ。受け取れねーのかよ」
「はい。お渡しすることが出来ません。マイナンバーのほうはどうされますか?」
「さ、さ、さっき変な女が来て取ってったよ」
わたしはここで、
ぷっと吹きそうになりました。
保土ヶ谷区以下の町名を尋ね不在連絡票を回収していった女性は、
決して「変な」女性ではありませんでした。
しかし、
イライラが極点に達し
泣きそうになっているパンチパーマには、
奥さん以外の女性はすべて
変な女性に見えたのかもしれません。
結局、
時間切れだったらしく、
パンチパーマは当初の目的の荷物も
マイナンバーも受け取れず、
いつの間にか局から姿を消しておりました。

・マイナンバー昭和は遠くなりにけり  野衾