虹色の魚

 

・吹く風にとぐろを巻きし落葉かな

季節は初夏。
あのころは真一くんと仲良しでよく遊んでいて、
魚を釣りに、
ではなく、
素手で魚を捕まえに行ったことがありました。
わたしたちの住む仲台から丘を下り、
大麦部落へ向かう辺りを蛇行する井川に、
靴と靴下を脱ぎ、
シャツとズボンの裾をまくって、
ゆるゆる入っていきました。
真一くんの真似をし、
腰をかがめ、
両手を水につけ、
魚をもとめガサガサガサガサやるのです。
こんなことして
ほんとうに
魚が捕まえられるんだろうかと、
目の下数センチのところを見ながら
疑問を感じ始めたとき、
バシャバシャッと音がし、
先を行っていた真一君が後ろに大きくのけぞって、
真一くんの両手から
虹色の魚が宙に舞いました。
あああっ!!
魚は一瞬、光を反射し、
そのあとすぐに川に落ち見えなくなりました。
「おしがったぁ!」
茫然自失。
わたしは立ちすくんだまま
真一くんの後姿を黙って見ていました。
真一くんをすこしだけ
尊敬する気持ちになっていたと思います。
なぜだか不意に、
今日、
そのことを思い出しました。

・凩來やかん頭を滑りけり  野衾