法務局

 

・秋立つや息を殺して見上げたり

久しぶりの法務局。
今をさかのぼること十七年前、
恐る恐る訪ねたものでした。
カウンター越し
受付にいたおじさんに、
「あのう、会社つくりたいんすけど…」
いやあ、忘れもしません、
この切り出し。
「あのう、会社つくりたいんすけど…」
おじさん、
わたしをじろり見て、
「ゆうげん? かぶしき?」
「はい?」
「有限会社ですか? 株式会社ですか?」
「ああ。そう……、小さいから有限」
「小さいから?」
「いや、有限。有限会社を作りたいと思いまして。どうすればいいでしょう」
おじさんまたじろり。
よっぽどトウシロウに見えたんでしょうね。
「伊勢佐木町に有隣堂があります。
その裏手に文房具屋がありますから、そこへ行って
『有限会社の作り方』を買いなさい。
そこに必要なことが全部書いてありますから」
それからとことこ
伊勢佐木町まで歩いたっけ。
きのう、
番号札を持ってソファーに腰掛けていると、
受付の女性から
熱心に説明を聞いている青年がいました。
ワイシャツの背中に、
は・つ・ら・つの文字。
透けて見えるよう。
どんな会社を作るんでしょう?
青年老い易く。
「あのう、会社つくりたいんすけど…」

・朝夕の烏鳴きをり残暑かな  野衾